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日本人の著るしい特色は、極めてレアリスチックな国民であるということである。天気晴朗、鳥の空に
囀ずる日に、何ぞ明日のことを悩まんやという、極めて楽天的な現実思想は、古来から日本人に一貫している。故に日本人は、宗教的な気風や哲学的の
瞑想を全く持たない。日本のあらゆる文化は、昔から徹底的な
現実主義で特色している。例えば詩を見ても、この点が西洋と著るしくちがっている。
西洋の詩は、一般に観念的・瞑想的であるけれども、日本の詩は極めて現実的で、日常生活の別離や愛慕に関している。特に
俳句の如きは、就中、レアリスチックの詩であって、殆ど自然の風物描写と、日常茶飯事の詠吟を以て事としている。思うに世界に於て、日本の俳句の如く現実主義な
抒情詩は一も無かろう。また
西洋では、瞑想的な詩を除く外の大部分は、殆どみな恋愛詩であるのに、日本の詩には比較的それがすくなく、主として自然描写の詩が多いのである。これ恋愛の本質は倫理感に属するのに、
日本人は気質的に超道徳者で、西洋人の如き基督教的強烈の倫理感を持たないためだ。
詩について観察したこの事実は、他のすべての文化に通じて同じである。日本人には*宗教感や倫理感の素質がない。然るに宗教感や倫理感は、それ自ら主観主義文学の根拠であるから、日本には昔から、その種の文学や芸術は発達しない。日本にある芸術は、昔から客観主義を徹底した、レアリズムの物ばかりである。
例えば日本では、音楽は一向に発達しない。第一日本人は、先天的に音楽を好まない。(日本人の音楽嫌いは、世界的に有名なものである。)これに反して、
美術は、殆ど世界的に発達している。公平に考えて、
日本の美術は世界無比のように思われる。然るに音楽は主観芸術の代表であり、美術は客観の典型だから、これほど事実に於て、日本文化の特色を証拠するものはないであろう。小説の如きも、
江戸時代に於て既にレアリズムの極を尽し、真の写実主義に徹底している。しかもこの種のレアリズムは、西洋の文学に於けるレアリズムとは、本質的に精神を異にしている。
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